REFERENCE ANNIVERSARY TURNTABLE / Nagra
REFERENCE ANNIVERSARY TURNTABLE
2021年にナグラ(NAGRA)は、創立70周年を迎えました。 ナグラは、録音と音声再生の卓越性を追求して設立され、世界最高と呼ばれたアナログ録音・再生機器を製造してきた歴史があります。昨2021年、ナグラは、ターンテーブルにトーンアームを登載した初のレコードプレーヤーシステムを発表し、伝説となるであろう製品がまたひとつ加わったのでした。
これまでターンテーブルがしばしば企画されてはきましたが、ナグラの名前を冠するのにふさわしい製品であるターンテーブルの設計/デザインが始まったのは4年前のことでした。オーディオスペシャリストのチームとして活躍しているナグラの才能豊かなデザイナーとエンジニア(設計者と技術者)のスタッフは、応用物理学、機械工学、電子工学、およびマテリアル科学の分野において、完璧さを追求してきました。
そして4年後、数百時間にわたる科学チームによる設計議論と徹底的なリスニングテストを経て、芸術性と言う言葉の範囲を拡張するほどのターンテーブルが誕生したのです。
このリファレンスプレーヤーは、アナログディスクのメカニカルな再生の精密さに於いて頂点にあり、人類のレガシー(遺産=アナログディスクに記録された過去の名演奏)や、近代の傑作を演奏する役割に十分応える、ナグラの技術を高度に結集させたディスクプレーヤーとして登場しました。
ドライブユニット
70周年リファレンスターンテーブルの心臓部は、モータードライブシステムです。2台のモータードライブを180°対向させて配置したマルチモーター ドライブシステムが、プラッターの回転速度安定性を高めることが確認されています。 70周年記念リファレンス ターンテーブルは、スイス製の高精度デカップルド ブラシレスDCモーターを2機採用しています。 この配置により、トルクと速度、両方の精度が最適化されます。 この大型モータードライブシステムの重量は11.2kg / 24.6 lbもあります。現在特許申請中です。
速度安定性
革新的な2モーターシステムに加えて、ターンテーブルは絶対速度キャリブレーションのために、高度の技術を応用しました。加速度計はフローティングシャーシの水平レベルと揺れを観察して、極めて安定していることを確認します。もし不安定な状態であれば、回転スピードなどの影響が出てしまいます。キャリブレーションは20秒で実行され、その間、実際の再生中に(レコードの音溝をスタイラスがトレースしている状態)、プラッターの速度が正確にキャリブレーションされます。この20秒間のサイクルで、プラッターの速度が高精度のクォーツによって、リファレンススピードと比較されます。この絶対的な速度基準からの偏差(誤差)は、基準となるリファレンススピードに従って修正されます。
ターンテーブルのフロントコントロールパネルに登載されているナグラ モジュロメーターによって、キャリブレーション(およびピッチ制御)が読み取れます。アクティブな強制的スピードコントローラーを排除したことで、演奏中はモーターはクローズドループモード(マルチモータードライブシステムは独自に制御しつつ動作しています)でのみ動作しています。アクティブなスピードコントローラーを排除したことで、アクティブなコントローラーシステムによって引き起こされるコギングや、それに付随する悪影響が排除され、音像イメージはきわめて安定したものになりました。
オープンリール式ベルトシステム
プラッタードライブに使用されているベルトにも細部へのこだわりがあります。 この重要な部分では、象徴的なNagra IV-Sテープレコーダーからインスピレーションを得ました。一般的にベルト表面は平らですが、 ナグラリファレンスターンテーブルの円形なこのベルトの製造会社は残念ながら現存しないため、ベルト組成の化学分析を行い、この高性能部品を忠実に再現しました。
ナグラのアナログレコーダーの遺産に敬意を表し、ナグラのLPドライブを「Nagra IV–LXXキャリバー」と呼ぶこととしました。
航空宇宙材料のプラッター
もうひとつの重要なコンポーネントは、ターンテーブルプラッター(ディスクを乗せて回転する円盤部分)自体です。 LPディスクとモータードライブ間のインターフェースとして介入するのはこの部分です。今回は、マテリアル科学を徹底的に研究しました。
LPディスクとほぼ同口径の透明なプラッター円盤の外周部には、円筒状の金属部分=リム(Rim)が取り付けられています。リファレンスターンテーブルのプラッターは、透明な円盤とその周囲を強固に構成するリム(Rim)とが一体化してプラッターとなっているのです。自重は6.5㎏となりました。
リム(Rim)を設計するために、ナグラエンジニアチームは、航空/宇宙産業で使用される合金、特に高度に特殊化された非常に高密度(チタンより60%高密度)で、極めて高いダンピング特性を持つ非鉄金属合金にたどり着きました。この合金はExiumAM®。 CNES(フランスのNASAに相当する国立宇宙研究センター)の特別な要請を受けて、有名なエコールデマインズドパリ(国立高等工業大学院)と共同でフランスの会社によって開発されました。使用可能な材料を円筒状のリムに加工するには、溶融状態の合金を遠心鋳造機で回転させる必要があります。
6.5 kg のプラッターを始め、リファレンスターンテーブルの各構成部品は、厳密な仕様に基づき、精密CNC機械加工が行われてます。その最終結果として得られたパーツのひとつである共振性の非常に低いプラッターは、ExiumAM®合金を使用して製造された世界初のオーディオコンポーネントとなりました。
22ミリ厚メタクリレート製プラッター 時計を思い出すようなキャリバー
ナグラでは、常にクリアーで自然な音を追求していますが、音質に悪影響を及ぼさない限り、優れて美しい形態が大切であると考えています。70周年記念リファレンスターンテーブルのプラッターでは共鳴を起こさないように配慮し、一方、美的に優れたプラッターをというデザインは、その哲学の代表的な例のひとつとなりました。
スイスの高級時計に着想を得て、22mmの厚さの帯電防止性の高い、透明なメタクリレート板をプラッターに採用しました。 「スケルトン」時計のように、70周年記念ターンテーブルのモータードライブシステムの構造的な美しさ、職人の技巧が見えるようになりました。 また、時計と同様に、キャリバー(Calibur=機械式の動力機構部)には「スイスメイド」の文字が刻印されています。 同様に、「コーテ・ド・ジュネーブ」または時計ムーブメントの装飾模様(Damaskeening)と「soleillage」等の仕上げと同じように美しい仕上げが施されています。
こうしてリファレンスターンテーブルは、ナグラの創設者であるステファン・クデルスキ氏の天性の才能、スイスの時計工芸の精緻な美しさに敬意を払ってもいるのです。
精密力学ベアリング
プラッターの下にはサブプラッターとシャフト/ベアリングシステムがあります。その最も注目すべき点は、高強度アルミニウムから機械加工されたサブプラッターが含まれます。 フェノール中間層は、共振を隔離するためにサブプラッター上部を覆っています。 サブプラッターからシャフト/ベアリングシステムへの伝達は、最も厳しい許容差を達成するために、マウントした上で再度機械加工された、真ちゅう製のアダプターを介して行われます。 シャフト/ベアリングハウジングは、球状のグラファイトアイアンを機械加工したものです。
超精密シャフトは高周波焼入れ鋼を採用しました。それは、何世紀も前の時計職人が仕上げの最終段階において超絶な手作業で仕上げたのとおなじ手法を採り入れたのです。
最終段階でシャフトブッシングは、焼結青銅で機械加工され、また、高温/高圧にオイルが含浸されていてメンテナンスフリーとなっています。ベアリングは、可能な限り最高の研磨グレードが施されたカーバイドボールを2段重ねで使用しています。
純銅のウエイト
ターンテーブルとともに使用するレコードウエイト(ディスクスタビライザー)は、広範囲な調査とリスニングテストの結果完成しました。
材料と形状の最終的に確定する前に、材料と形状との多数の組み合わせが研究されました。 その結果、特徴的な形状でコンパクト、しかも重量のあるウエイトとなりました。
シャーシとサブシャーシ
非共振シャーシ
70周年記念リファレンスターンテーブルの特徴のひとつは、シャーシおよびサブシャーシでしょう。航空機グレードのアルミニウムと、フェノールの大型プレート(黒く見える)は、システムの機械的構造部分の影響による音(響き)のカラレーションを防ぐ目的で、CNC切削によるアルミニウム/フェノール/アルミニウム──物性の異なる素材──の三層構造で低共振、高剛性を誇ります。
フローティングサスペンション
ターンテーブルシステムのパフォーマンスに不可欠なのは、そのサスペンションです。この場合、ナグラ エンジニアチームは、HD PREAMPとHD DAC Xの両方に共通したサスペンションシステムの構造機構を基本的に取り入れ、さらに独自のスタイルをデザインしました。スプリングのバネ成分を機械的原理とし、これに油圧原理の両方を組み合わせたスプリングメカニズムを応用した独創的なサスペンションシステムとなりました。
またダンパーケースに注入されている高粘度の液体は、メカニズムと一体となって3次元でサスペンションとその位置を正しく矯正するように働きます。この革新的なシステムは、ターンテーブル自体から生ずる振動とスピーカーから室内に発せられた音圧が空気中を伝達して発生させる共振に対しても非常に強い対共振性を備えることが出来ました。
フローティングサスペンションの安定性を確保するために、サスペンションが機能する位置(高さ)は、LPレコード表面の高さに可能な限り近くでなくてはなりません。そのため、サスペンションの円柱(サスペンションピラー)は高さがあります。「形態は機能に従う」と言われるような高さとなりました。このコンセプトとその実地テストによる効果については、LPレコードを演奏し、数センチ以内の位置でスピーカーからの大音量重低音を再生させて過酷なテストを行い、確認しました。その結果、高感度のカートリッジ/トーンアームへの振動や共振伝達はほぼゼロということが確認されたのです。
ラボでの測定により、サスペンションに支えられたシャーシの自己共振カットオフ周波数が3Hz未満であることが確認されているため、大音量のリスニングレベルでも、機械構造などによるカラレーションやフィードバック(ハウリング)がないことを保証します。 70周年記念リファレンスターンテーブルの全体的な水平面の調整は、サスペンションピラーの脚部を回転させることで簡単かつ正確に行うことができます。
スーパーキャップ電源とスーパーキャップドライブユニット
ターンテーブルシステムの電源部を革新的な構成にすることによって、音質が大きく左右されることがわかっています。
いっぽう、スーパーキャップを多用した電源は、バッテリー電源のすべての利点に加えて、バッテリー電源よりはるかに高速で充電出来るというメリットに加え、より高い電流負荷およびサイクル安定性を提供します。 4年間の開発プロセスでは、ナグラのHDシリーズ外部電源での技術や設計の応用をリファレンスターンテーブルの電源部に活かし、モータードライブ自体で複数のスーパーキャップを使用して、万全な電力供給体制を構築しました。こうしてモーターのごく近くにエネルギー源を置くことは大きなメリットになります。
70周年記念リファレンスターンテーブル電源デザインには、スーパーキャップを登載した最先端技術のHD PREAMPおよびHD DAC X外部電源の技術やノウハウが寄与しました。バッテリー電源はAC電源に接続された電源よりも優れていることはすでに認識されていますが、消費電力の大きいオーディオコンポーネントにバッテリー電源を使用することは実用的ではありませんし、充電回数の制限もあります。
リファレンスアニバーサリートーンアーム
リファレンスターンテーブルは「プレーヤーシステム」として設計されました。 それは、ターンテーブルと登載されたトーンアームとが、統合された再生システムとして機能するように、全くの白紙から設計されたということです。
ターンテーブル自体に見合った性能を備えたトーンアームでなければ使用に耐えず、その設計には多くの時間が費やされました。
デュアル同心カーボンファイバー チューブ
リファレンスターンテーブルのトーンアーム自体には、パイプ部の中間層に木質系の部材を入れ、カーボンファイバーを二重にして剛性と防振性を高めました。 木材は、形状を形成するだけでなく、潜在的な振動を排除するために使用されます。
その結果、カートリッジ接続とベアリング取り付け部に対応する超剛性の超低共振プラットフォームが実現します。 アームは10.5インチ長で、付随する有害なジョイントをもたらせずに、シェル一体型としました。ヘッドシェルとアーム本体とに二分された構成のアームに伴う、電気的な接続での損失、機械的な強度の低下による問題と共振による問題が同時に解決されます。
トーンアームのベアリングは、シンプルで非常に正確なCNC加工によりテーパー形状となった硬化スチールコーン形状ベアリングで、非共振、シリコンダンピング、超高密度ポリエチレン製受け部に収められています。 トーンアームのカウンターウエイトは、トーンアームの有効質量を最小限に抑えながら安定性を提供する、吊り下げられたサドル型のウエイトとなっています。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、「シンプルさが究極の洗練である」と言っていました。
この「公理」の真の証拠は、70周年記念リファレンスターンテーブルのトーンアームが、たった八つの部分のみで構成されているという事実によって実証されています。トーンアーム部を含む、リファレンスターンテーブルを構成するすべてのコンポーネントはナグラチームによって設計され、最高水準の精度でスイス国内において製造され、組み立てられました。
時計職人調整精密トーンアーム
LPの溝にスタイラスの形状を正確に合わせることは重要なことです。
この目標を達成するために、洗練された磁気アンチスケーティングメカニズムがあらたに設計されました。 そのデザインと製造で、特許を申請中です。
複数の形状と多くの材質を試す、リスニングテストの繰り返しを経てナグラ設計チームはクリスタルケーブルを使用、単結晶の純銀ワイヤーを使用した内部配線用特製ケーブルを採用しました。
カートリッジの垂直トラッキング角度(VTA)は、非常に重要な位置合わせパラメータです。 リファレンスアニバーサリーターンテーブル/トーンアームのユーザーは、VTAをディスク演奏中にでも(「オンザフライ」)簡単かつ繰り返し調整できる機能を利用できます。 特大の高精度ロータリーは、精密カメラレンズのヘリコイド機構のように、スムーズで正確に微調整を容易に行うことができます。 このシステムでは、最大10 mmの垂直移動が可能です。
終わりに
リファレンスアニバーサリーターンテーブルは、ナグラの伝説的なオープンリールレコーダーと非常によく似た、物理学と力学の不変の法則に準拠したアナログ製品です。技術も設計も部品も急速に変化してしまうことに対応しなければならないデジタル界の開発とは無縁です。 したがって、リファレンスターンテーブルが何世代ものユーザーにもわたって使われても、技術的に古くならないということです。本機を購入することは、これ以上改良の余地がないターンテーブルを購入することであり、世代から世代へと誇らしく受け継がれる製品となるでしょう。 現在も使用されている50年代の多くのNagra IIIレコーダーと同様に、Nagra リファレンスターンテーブルはアナログファイルの生涯の友となる製品です。
Platine V3
Eclaté Bras v3
Specifications
- サイズ
- ターンテーブル部:662(W) x 267 - 281(H) x 452(D) mm
- 電源部:438(W) x 121 - 130(H) x 414(D) mm
- 重量
- 80kg