VarèseからLina、そしてVivaldiへ / dCS

Varèse(ヴァレーズ)は、これまでで最も先進的かつ高性能な音楽システムです。Varèse(ヴァレーズ)からLina、そしてVivaldiへ。長年のVarèse開発における画期的な技術やノウハウが、dCS全製品のアップグレードや改良にどのようにして関連したかをこのページで詳しく解説いたします。

'Blank Sheet' Designs: Rethinking the audio experience

dCSの研究開発では、既存のハードウェア、ソフトウェア、テクノロジーを含め、設計のあらゆる側面を検討し、どこをどのように改善できるかを決定していきます。

dCSの研究開発には主にふたつの柱があります。

  • 現行モデルのアップデートに取り組むこと。
  • デジタルオーディオの最先端技術をより高度に進歩できるかを探求すること。

この2本の柱はしばしば重複します。最終的な目標は、リスナーに録音された音楽を、正確に、ディティール表現豊かに、あたかも眼前で演奏しているような音楽体験を届ける再生システムを生み出すことです。

これらの目標に対して、エンジニアは、まったく白紙の状態から基本設計を構築していくことも必要になります。dCSのエンジニアが、技術的または商業的な要素を考えずに現行モデルやプラットフォームの能力を超える技術を探求する、というやり方です。妥協は許されません。

新しい設計とは、ソフトウェアやハードウェア、工業デザイン、機械デザイン、UXデザイン(User Experience Design=ユーザーのニーズに合わせた設計)など、さまざまな分野で各チームが連携し、現在そして将来にわたってリスナーにとって最高の音楽体験を提供。しかも、ストレスなく操作できるようなモデルに発展させることが課題となります。

このプロセスは多くの場合、新しい「リファレンス」システムの創造に結実し、その測定と音響性能において新たな基準を打ち立てていくことになります。開発を進めていくことは、新たな技術的DNAを得ることができ、それをもとに新製品を開発したり、現行dCSモデルの性能を向上させることが可能になっていきます。

一例を挙げてみましょう。

dCS Vivaldi(ヴィヴァルディ)システムは、ジッターやクロストークを含むいくつかの重要な分野でパフォーマンスを向上させようという目標を持ったプロジェクトから誕生しました。dCSのエンジニアは、オーディオ信号をより正確に再現し、より自然で音楽的なパフォーマンスを可能にする一連の新しい開発に取り組んだのです。

その後、Vivaldi OneからBartók DACやRossiniシリーズに至るまで、dCSはVivaldiに搭載された技術を応用したモデルを発表してきました。並行して、dCSはハードウェアとソフトウェアのアップグレードによってVivaldiの性能を向上させ続け、システムはその音質と音楽的表現によって世界の名だたる専門誌から権威ある賞を受賞し続けています。

Varèse Research and Development dCS Varèse

dCS Varèse

dCSの新しいシステム、Varèse(ヴァレーズ)の設計もまた、「全くの白紙」からスタートしました。dCSの最初の目標は、既存の製品やプラットフォームの能力をいかに超えることができるかを追求することでした。

Vivaldi(ヴィヴァルディ)、Bartók(バルトーク)、Rossini(ロッシーニ)、Lina(リナ)で築きあげた技術水準を超えることは並大抵の努力では達成不可能であり、かなり過激で革新的な技術を築き上げなければなりませんでした。

特許を取得した新しいクロッキング技術(dCS Tomix)、システムのセットアップと制御を簡素化する新しいプロトコル(ACTUS)、リニアリティーとノイズフロアの大幅な改善をもたらす新しいDAC構成(ディファレンシャルRing DAC)の開発など、dCS史上で最も野心的な挑戦に着手しました。

また、音楽をより深く、楽しく聴くために、新しいアプリと操作機器(Mosaic ACTUSアプリ、Varèseユーザーインターフェース、リモコン)をも開発しました。

ここで考案され、作られてきた先進技術は、Varèseという形で具現化しましたが、それはまた、dCS現行モデルのアップグレードによって、現行モデルをお楽しみいただいているリスナーの音楽再生をもより深く、より高くお楽しみいただけるようにトリクルダウンしていくことができるようになるでしょう。

dCSは常に、現行モデルを改良し、(製品には部品供給などによって寿命がありますが)dCS製品をご愛用の方々がdCSの最新技術から何らかの恩恵を受けられるよう尽力してきたのです。

Varèseを発表して以来、お客様から、Varèseの技術が既存のdCS製品に応用されたのかを尋ねられました。

ここでは、Vivaldi、Rossini、Bartok、LinaがVarèseに開発期間に取り組んでいる間に開発されたブレークスルーの恩恵を受けていることを説明します。

APEX: A Major Upgrade to the dCS Ring DAC

The dCS Ring DAC APEX Board

2020年、コロナ禍(Covid-19)のロックダウンが始まった数ヶ月間、dCSの製品開発ディレクターであるクリス・ヘイルズは、dCS Ring DAC(すべてのdCS DACに搭載されているデジタル・アナログ変換システム)のアナログ性能が向上できないか、と考え始めました。

これは、現在のRing DACボードを再評価し、さらに音質向上が可能かどうかを検討することから始まりました。 フィルター、サミング、出力段の変更など、改良効果を実証する目的でプロトタイプを制作し、何ができるかを実際に検討し始めたのです。

これは後にVarèse Mono DACの誕生につながる、DAC構造と構成の可能性を探る幅広い取り組みの一環でした。プロトタイプのテストと試聴から、設計チームは、dCS現行モデルに搭載できる音質改善につながるアップグレードになるということが明らかになりました。

この時点で、dCS 現行モデルのDACとプレーヤーの音質向上に大きく貢献するべく、このアップグレードを製造することになりました。これは、エンジニアリング・チームが差動リングDACとVarèse Mono DACの回路基板を開発する作業と並行して進められました。

dCS Bartók APEX DAC

2022年、dCSはVivaldiとRossiniのDACとプレーヤー用にRing DAC 「APEX」ハードウェア・アップグレードを発売しました。

「APEX Ring DAC」は、約12dBリニアになり、ダイナミクス、解像度、リズム、タイミングが向上し、音色の解像度とヴォーカルの表現が高まる、など、さまざまな音質的向上が多くの著名評論家によって指摘されています。続く2023年にはBartók DACのAPEXアップグレードが可能になりました。

Varèseミュージック・システムはユニークなDACアーキテクチャを特徴としており、これまでのdCS製品にはなかった要素があります。ディファレンシャル・リングDACやモノーラルDACなど、その一部は既存のdCS DACには適用できませんが、他の要素はRing DAC APEXアップグレードによって導入されました。

その結果、APEXとVarèseのディファレンシャル・Ring DACにはいくつかの共通点があります。出力段だけでなく、Ring DACに供給される基準電源とクロック信号経路は、APEXユニットとVarèse Mono DACで共通であり、APEXのユーザーは2022年以来、Varèseのアナログの利点の一部を享受していることとなります。

dCS Mosaic: New Features & UX Improvements

Grid View feature in dCS Mosaic

Varèseを開発する際、私たちはオーディオ・パフォーマンスを向上させると同時に、リスナーが直感的で簡単に音楽にアクセスできるアプリを目指しました。このことを念頭に置いて、dCSは、複雑さを取り除き、人々がよりシンプルに音楽にアクセスし、また、dCSモデルをコントロールできるような方法をもう一度原点から考えることにしたのでした。 

dCSは、dCS製品を使用しているオーディオファイルと話すことに多くの時間を費やし、どのようにシステムを使い、どのように再生音楽をより高い次元で楽しんでいるかを調査しました。また、リモコン、フロントパネル・ディスプレイ、Mosaicアプリなど、ユーザーがコントロールするインターフェイスやタッチボタンなども研究対象にしました。

これと並行して、私たちはリスナーが音楽を探し当てる過程に対しての調査にも多くの時間を費やしました。人様々な音楽を聴くまでの設定や方法を調べ、どのような違いがあるのかをも調べたのでした。

Varèseのユーザーインターフェース、リモコン、モザイクACTUSアプリのデザインは、このような広範な調査研究によって進められ、直感的なメニューと豊かなディスプレぃ表示、心地よい感触のタッチポイントによって、人間の感覚を大切にしながら開発を進めたのでした。

また、このプロセスで得られた研究結果や洞察は、現行dCSモデルやプラットフォーム向けの新機能の開発にも活かされています。

例を挙げれば、ボリュームコントロールのデザインの改善や、Mosaicアプリ内のグリッドビュー機能などです。まだ開発中のものもあり、お手元のdCS製品をより良くするための研究開発は続けられています。

dCSは世界中のユーザーからのフィードバックを集め続けています。それは、dCSモデルで音楽をより深く、精緻に聴き、より豊かな音楽ライフを求めていく真摯なオーディオファイルには、心強い開発姿勢であろうと自負しています。

The Lina Network DAC: Mechanical & Electronic Innovations

dCS Lina Network DAC Flex-Rigid Circuit Board

dCSのLinaシリーズは、Varèseの開発期間中に設計されたので、Varèse開発の成果はLinaの構造要素に反映されています。Lina Network DACは、単一のフレックスリジッド(基盤を頑丈に一体化したのと同じ性能を持たせるため、接点を経由さず、フレキシブルな銅によって一体化した基板の名称)回路基板を採用した最初のdCS DACであり、最初のデジタルオーディオ製品です。この一体となった基板はオーディオ信号経路の改善をもたらし、音や性能に妥協することなく、よりコンパクトなかたちで、dCSテクノロジーを妥協することなく達成させたのでした。

また、Lina シリーズは最新の金属加工法を駆使した構造、部品設計への総合的なアプローチから誕生しました。今までのdCS製品とは異なる野心的なシャーシが完成したのです。

Linaの堅牢なビレットアルミ合金シャーシは、3軸および5軸CNCマシンを使用して機械加工されており、フレックスリジッド回路基板を搭載するように設計されています。このシャーシはテストと製造効率を向上させるとともに、外部電界を遮蔽するファラデーケージ(電波暗室)としての機能もあります。また、内部の繊細な電子機器を振動から保護する剛性の高い非共振ケースでもあるのです。

Inside the dCS Lina Network DAC

Lina DACのシャーシの機械的構造は、Varèseにつながる白紙から立ち上げたプロジェクトの一環として設計されました。目的はdCS製品の機械的設計を強化することを探るプロジェクトから生まれたのでした。

フレックスリジッド回路基板デザインは、Lina マスタークロックやヘッドフォンアンプにも採用されていますが、Varèse Coreの開発から生まれたのです。Coreはフレックスリジッド回路基板を採用し、安定した性能を確保しながら、拡張モジュールの取り付けを容易にしました。

終わりに───

Varèse(ヴァレーズ)は我々dCSの渾身の作品です。

Varèseの開発で培った技術は、Varèseから派生して、dCSの既存製品にも活きています。

たとえば、 約12dBリニアリティーを改善し、ダイナミクス、解像度、リズム、タイミングが向上した 「APEX Ring DAC」であり、オーディオ信号経路の改善をもたらした「フレックスリジッド回路基板」となっているのです。

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