Ring DAC APEX / dCS



New dCS Ring DAC APEX

dCSの最新のRing DAC APEXを登載したRossini、Vivaldiシステムは、音楽再現性を大きく高めることができました。その開発と効果を以下に述べます。

Ring DACはdCS製品の重要な構成要素であり、開発からすでに30年が経過しています。1980年代は、dCSの技術がレーダーと無線通信の分野で知られていた時代ですが、dCS技術陣は24bitの解像度でオーディオ信号を処理する今までにない独創的なデジタル・アナログ変換システムを開発しました。

24bitオーディオ信号処理は、この時代には誰も考えてはいない手法でした。この技術的な大きな進歩は、高解像度のDACとADC、そしてマスタークロックの導入へと続き、いい音の録音で高評価される世界の主導的なレコーディングスタジオに採用され、その後、音楽愛好家のデジタル音楽演奏システムの中核となるのでした。

即ち、プロフェッショナルな音楽制作現場と、感性豊かなオーディオファイルとに愛用されたのです。30年にわたって、Ring DACは1と0のデジタルデータから音楽を蘇らせる先端技術であり続けてきました。Ring DACの核心部分は技術的、音楽的なパフォーマンスによって、世界的に喝采を受けてきたのです。

この別格な高評価は、たゆまぬ改革と開発のたまものです。革新的なRing DACの誕生以来、dCSのエンジニア達は絶えずRing DACを洗練させ、性能を高める設計を追求してきました。意欲的なアップグレード、機能の追加と性能を向上させることで、音楽パフォーマンスにおいての独占的な地位を不動のものにするために開発し続けたのです。

一言で申せば、Ring DACの基本的な原理自体はそのままに、よりハイスピードで、よりスマートでより洗練させ、より進歩的に、新しい世代のRing DACへ進化していったのです。dCSの機器はRing DACの進化によって、アップグレードによって、進化し、より優れた表現力が備わり、進化してきたのでした。

2017年には、Ring DACを制御するソフトウェアのメジャーアップデートをリリースし、リスナーの音楽演奏の嗜好に合わせて、dCSシステムのパフォーマンスを調整できるマッピングアルゴリズム(後述)を追加しました。このアップデートのリリース以来、dCSはRing DACの設計と機能をさらに高める方法を模索し続けてきました。約12ヶ月前、製品開発ディレクターのクリス・ヘイルズ(Chris Hales):註①は、Ring DACハードウェア、特にRing DAC回路基板とアナログ出力ステージに焦点を当てることを決定しました。

※①:クリス・ヘイルズ(Chris Hales)=dCS在籍20年のR&D(研究開発)、デザイン(設計)チーム責任者。dCS創業者であり数学者であるマイク・ストーリー氏の薫陶を受けたエンジニア。全てのdCS製品の音質、デザインに関わり、Vivaldi、Rossini、Ring DAC APEXなどを開発。

徹底した研究姿勢

「dCSでは、自社製品のパフォーマンスを定期的に試聴し再吟味し、どのように機能しているか?、性能を発揮しているか?、改善できる箇所があるか?、などなど綿密に調べています」とクリス・ヘイルズは言っています。 「昨2021年、[Ring DACハードウェア]のパフォーマンスを注意深く調べたところ、既存のアナログボードのパフォーマンスがほとんどの測定機器の能力を超えていることがわかりました」。

これはdCSのエンジニアにとってよくあることです。同社の製品は従来のテスト機器の能力を超えることが多いため、正確または包括的な測定が既存の測定器では不可能な場合には、必要に迫られて新しいプラットフォームや測定ツールをゼロから構築し、それに投資することは日常茶飯事です。

「オーディオ測定システムは、測定される機器と同じように、ノイズや歪みが混入したり、周波数帯域を制限したりする可能性があります。このような副産物は、測定器が測定される機器を支配していなくても、測定に影響を及ぼし、正確な測定が出来ないという問題となることが往々にしてあるのです」。

「わかりやすい例は、高調波を測定する場合です。この場合、測定機に固有の2次高調波がある場合には、測定される機器の2次高調波と干渉してキャンセルされてしまう可能性があります。測定値が本来よりもはるかに低く測定されることとなり、テスト対象機のパフォーマンスが、測定器の2次高周波によって、実際とは異なる結果を得てしまうことはよくあることです」。

Ring DACのアナログ回路の場合、内部で発生した副産物を減らす方法を採用しました。これにより、クリス・ヘイルズはさらに改善するためのいくつかの潜在的な領域を特定することができました。 リングDAC回路とアナログ出力ステージはすでに優れた測定結果が実測されていますが、おそらくさらに改良または再構成できると彼が感じたいくつかの箇所がありました。

時間を掛けた研究と測定の後、コロナ禍のロックダウン中に、回路基板を数ヶ月間集中的に試作、検証し、クリス・ヘイルズは自身の理論を検証するためのプロトタイプ基板を開発しました。

何種類かのプロトタイプ基板をdCSのデザインチームは測定し、分析しました。そして、アップグレードができるように、「見える化」し、プロトタイプに手を加え、リスニングテストを行いました。音楽とオーディオの専門家、プロデューサー、エンジニアなどにリスニングテストを依頼したのです。その結果、音質的な改善は疑いなく達成された、との結論を得ました。

さらに、この結果に自信を得たデザインチームは、高評価な数種類のプロトタイプ基板を測定し、試聴し、ベストと判断されたものをdCS Ring DAC 「APEX」として発表できると確信したのです。

野心的な設計

新しいRing DAC APEXハードウェアには、いくつかの変更が加えられています。

クリス・ヘイルズが研究開発段階で最初に検討した領域のひとつは、Ring DAC回路基板のリファレンス電源でした。この調査により、クリスはいくつかの重要な調整を行うことになりこのように語っています。・・・ 「[リファレンス電源]は、オーディオパフォーマンス、特に[リングDAC]の出力インピーダンスに直接影響します。実際、出力インピーダンスが安定的か?、ということですが.……その安定度を改善する方法を何通りか発見したので適用してみました。結果、パフォーマンスに際立った違いをもたらしました。」

電気システムには、基準電圧に干渉する可能性のある外部信号があるため、基準のインピーダンスが低いほど外部信号からの干渉を受け難くなります。

クリスが指摘するように、Ring DACは本質的に乗算演算DAC(multiplying DAC)です。つまり、基準電圧にDACコード値を乗算するのです。

その結果、そのリファレンス上のすべてのもの(ノイズや周期信号など)が出力に直接結合されます。最適なパフォーマンスを得るには、AC的な部分やノイズのない純粋なDC電圧を基準にしなければなりません。

「たとえば、机に固定された定規を想像してみてください。薄い金属製の定規であれば、固定されていない端を簡単に動かすことができます。厚い木製の定規であるれば、動かすことは困難です。この例えでは、厚く固い定規は低出力インピーダンス(電圧を変更するのが難しい)に相当し、薄くて柔かい定規は高出力インピーダンス(電圧を変更するのは簡単)に相当します。」

「Ring DAC回路の負荷は信号によって変動します。これは、定規の端を押す強さを変えるのと似ています。その結果、基準電圧は、基準のインピーダンスに比例して信号に応じて変化します。場合によっては余分な高調波を増加させてしまうため、出力インピーダンスを低く保つことにより、電圧変動を最小限に抑え、それによって出力の汚染(余分なものが付け加わること)を最小限におさえることを可能とします。」

クリス・ヘイルズは、加算およびフィルター段階を含む、リングDACに後続するすべてのステージの徹底的な検証、研究を行いました。「そこで導入できた性能強化が何ヵ所かありました。たとえば、加算ステージの対称性を改善することです。そして、最後に、出力ステージをよく調べました。」

Ring DAC出力ステージは、Ring DACによって生成されたアナログ信号をバッファリング(他から緩衝させる)役割を果たします。音楽信号を強力に出力させるのです。 Ring DACのアナログボードは、デジタルステージとアナログステージの両方で構成されています。デジタルステージは、dCSデジタル処理プラットフォームから供給されたデータを取得し、マッピング機能:※②を実行します。 これにより、Ring DACの心臓部を形成する48個のラッチ回路:※③が駆動されます。 次に、これらのラッチの出力は、オペアンプの加算ステージによって加算合成され、出力ステージによってバッファリングされる前に、非常に高い周波数成分を取り除くためにフィルタリングされます。

こうして出力ステージは、Ring DACのパフォーマンスに影響を与える外部要因を防止する役割を果たします。つまり、DAC そのものを外界から隔離します。

※②:マッピング/Mapping機能=ひとつひとつのデジタルデータをアナログ変換する48個あるラッチ回路のうち数個に振り分ける機能。

※③:ラッチ/latch回路=ラッチによってひとつのデジタルデータがアナログに変換される。

dCS製品の出力から先で、ユーザーがどのようなケーブルやアンプを使うか、dCSとして指定することは出来ません。接続される機器のインピーダンスなど入力特性(仕様)はさまざまなので、出力ステージは多くの電流を供給できることが重要です。これにより、接続される機器を十分に動作させるのと同時に、dCS製品自体が優れた安定性を得るのです。

「アンプ/プリアンプの入力にはキャパシタンス(静電容量)と抵抗がありますが、DCバイアス電流が必要になる場合もあります。さらに、バランス入力ステージは大きく異なります。これらをDACの加算ステージに直接接続する場合、加算ステージを外界から分離して、加算ステージのパフォーマンスを最適化し、ケーブルとアンプの組み合わせがもたらす不確定な負荷であっても駆動できるようにすることが重要です。」

「歪みなしでその入力キャパシタンスを駆動するのには、低インピーダンスで十分な電流供給能力が必要となります。新dCS製品の出力ステージは、多くの異なる機器が組み合わされて構築されたオーディオシステムであろうとも、全体的なDACパフォーマンスをはるかに一貫性のある(つまり安定した)ものにします」。とクリス・ヘイルズは説明します。これらは当然のことなのですが、今回の改善にあたりdCSデザインチームは、当たり前のことであっても真摯に対応し、最善を尽くした設計とトポロジーとを完成させたのでした。

Ring DACのハードウェアに加えられたその他の変更は、Ring DAC回路基板上の個々のトランジスタを複合ペアに置き換えたこと、Ring DAC回路基板上のコンポーネントのレイアウトを調整することなどでした。これらの改良によって、いままでよりもさらに静かで、12dB以上もリニアな特性を備えた、新しく強化された回路基板となりました。

「これは非常に価値のある改善でした。わたしたちは、すでに基本波より-110dB~-120dBも高調波が低いことを実践していました。さらに12dB以上の大幅な改善が達成されたのです。従来機のパフォーマンスが優れていたからこそAPEX化することのできたのです」と彼は付け加えました。

新たな基準を設定

強化されたRing DACの技術的パフォーマンスは、リスニングテスト結果からでも確認でき、さまざまなベクトルでの音質改善をもたらしました。

Ring DAC APEXプロトタイプを使用したリスニングセッションに参加した評価者からは、「いろいろなメリットはあるが、特に音質で言えば、より高まった解像度とダイナミックス、正確度を増したリズムとタイミング、さらに優れた音の自然さやなめらかさ、より正確で音色的に自然な音声、弦楽器のよりリアルな音色、などに感動した」との評価でした。各リスナーの音楽体験は一人一人によって異なり、オーディオのセットアップ、再生した音楽、再生環境など様々ですが、dCSの主観的な調査からスタートしたAPEXはとても素晴らしく、魅力的な音楽体験を多くのリスナーに提供できるということが確認されたのでした。

「それはまったく正しかったのだ、と思います。プロジェクトチームが最終段階にたどり着き、テストの最終ラウンドをすべて終えたとき、不思議な力が働いたように感じました」とdCS経営責任者、ディヴィッド・スティーヴンが発言しました。

「リスナーは素晴らしいオーディオに引き込まれ、関わり、そして感動するでしょう。APEXは、そのような素晴らしいオーディオ機器のひとつであることは紛れもないことであろうかと思います。ディテールの表現性、さらに高まった解像度、そして何よりも心に触れる音楽再現性によって、リスナーを感動させる力があると言うことです。至高の機器と評価されている従来のdCS DACを母体として再改善し、測定器による改善結果の観測のみではなく、人間が聴き、感じるというアーティスティックな分野に何かをもたらす、すなわち、リスナーの感性に訴えるという意味で、本当に素晴らしいdCSエンジニアリングチームの成果となりました。」

継続的な進化

すでにクラス最高のパフォーマンスを提供しているハードウェア・プラットフォームを改善することは容易なことではありませんが、最新のRing DAC APEXハードウェアは、厳密な分析、クリエイティブ思考、継続的な製品開発を通じて達成できることの証明です。 「可能な限りの改善を実現することは、私たちの哲学の一部だと思います」とクリス・ヘイルズは付け加えます。

「継続的な改善は、私たちが常に真摯に考えていることです。dCSデザインチームには常に物事を改善したいという本能というか、……理由がなんであれ、『改善することができれば、それをやってやろう』 ── 挑戦するに値する。」という哲学があります。

この継続的な開発は、エンジニアの生来の好奇心と、絶えず改善したいという願望だけではなく、dCS製品が、「可能な限り最高のパフォーマンスを保証する」というdCSの哲学あってこそできることです。

経営責任者ディヴィッド・スティーブンと研究開発と設計の責任者クリス・ヘイルズが共に指摘しているように、これはイノベーションのためにイノベーションではなく、リスナーが大好きなアーティストやレコーディングを聴くという音楽体験を質的に向上させる進化なのです。

継続的な進化を達成するために、dCSのエンジニアは、個人の主観的なフィードバックだけでなく、多岐にわたる測定技術、技術経験、過去から積み重ねられたデータを駆使しなければなりません。dCSテクニカルディレクターのアンディー・マクハーグは「ハイファイ(Hi-Fi)の挑戦的課題のひとつは、多くの特定的な測定値を特定の音響特性に関連付けることだ」と指摘しています。これは、特定の領域で音質を改善するために行う、技術的パフォーマンスのひとつの側面を強化すればいい、といったような単純な事例ではないことを表明しているのです。

dCSエンジニア チームは、特定の技術的側面を改善することでサウンドが改善されることは知っていますが、それだけでは製品の全体的なパフォーマンスに予期しない、または意図しない影響を与える場合があるということも理解しています。

人間の耳による主観的なリスニングテストがdCSの製品開発において非常に重要な役割を果たすのは、このためです。

dCSデザインチームは、豊富な経験によって、多くのさまざまなリスニングテストから得られたフィードバックを理解し、解釈することができます。また、dCSユーザーに超一級の音楽体験(他を圧倒する最新技術的パフォーマンス)を味わっていただくために、エンジニアの知識、技術をどのように応用すれば良いかを理解しているのです。

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