ライブ会場やフェスで「ラブ・ダンシン」の凄い音、どうして?(2025.12.10)
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Love Dancin(ラブ・ダンシン)は高性能な移動式サウンドシステムでフェスティバルやクラブ体験を変革する使命を掲げ、音楽を最優先にしたダンスパーティーを英国をはじめ世界各地で開催している。共同創設者アダム・デューハーストに、DJプレイバックのための究極のシステム構築、優れた音響がパフォーマーやダンサーに与える影響、そしてバーやクラブ、社交空間における高音質への需要の高まりについて話を聞いた…
1970年、デイヴィッド・マンキューソはナイトクラブやDJ、サウンドシステム文化に影響を与え続けるコンセプトと彼の考えに基づいたパーティーを立ち上げました。その影響は、数十年にわたり多くのの心を捉え、今日もこれまで以上に、音楽を愛する人達のための居心地の良い空間を作り出すことに、彼は尽力したのです。商業主義を排除し、純粋に心に訴える音楽を凄く良い音質で演奏し、聴く人が自然に身体を動かせるような、そんな空間を創り出すことが絶対に必要だと考えました。そこで彼は、ニューヨーク市のロフトアパートで招待制のダンスパーティーを開催し始めました。そこでは、オーディオファイルグレードの機器で再生される素晴らしい音の音楽に合わせ、人々が何時間も踊り続けることができのでした。今や伝説的なコンポーネントには、クリプシュホーンスピーカー、マーク・レビンソンアンプ、光悦のMCカートリッジなどによる、プレィバックでした。

マンキューソのパーティーは、その開催方法とコミュニティ重視の姿勢、そして優れた音響の両面で先駆的でした。彼は友人や取り巻きと一緒になって、この方法をヨーロッパへ広め、まずロンドン、そしてイタリアへと展開していったのです。
DJ、ブロードキャスター、そして「クラシック・アルバム・サンデーズ」の創設者であるコリーン・コスモ・マーフィーは、1990年代初めにニューヨークでデヴィッド・マンキューソと出会い、意気投合しました。その後、彼女はロンドンに移住し、マンキューソとともに「ロンドン・ロフト」パーティーを立ち上げました。また、デヴィッドと一緒に、もはや伝説となっている「ザ・ロフト」のコンピレーションアルバムを共同で制作し、ニューヨーク内外での彼のあらゆる事業に携わりました。その後30年間、フェスティバルで DJ を務め、アーティストのリミックスを手掛け、ナイル・ロジャースやローリー・アンダーソンなどのアーティストとのプレイバックセッションを主催するなど、マンキューソと緊密な協力関係を維持しました。2016年に亡くなる前に、マンキューソはマーフィーに「The Loft」の会長になって、ロフトの将来と彼の残した足跡(遺産)を引き継いで、その精神を残してくれ、と言い残しました。

マーフィーは、友人たちとの共同作業でロンドン・ロフトの運営を続け、クラシック・アルバム・サンデーズとの仕事を通じて、いろいろなところで試聴会を開催しています。ここ数年、彼女はトロージャン・サウンド・システムの「セレクタ」ダディ・アド(別名アダム・デューハースト)とも協力し、ロフトの精神から派生した音楽、ダンス、そして心躍る楽しいムードを重視した音楽イベントコンセプトを開発し、これを会員制ではない公の会場で実現しようとしています。
コンセプト「ラブ・ダンシン」は、英国 ドーセットで毎年開催される音楽フェスティバル、「ウィ・アウト・ヒア」で具体化されました。毎年、アダムとコリーンは協力するチームと共にウィ・アウト・ヒアを訪れ、専用のテントで4日間にわたるDJセットを主催します。テント内には巨大なミラーボール、ウッドフローリングのダンスフロア、音響設備、そしてハイエンドのオーディオ機器とプロ仕様のDJ・スタジオ機器を組み合わせたサウンドシステムを用意しています。
このサウンドシステムは、デジタルとアナログの両方を再生します。グラスゴーの小売店Loud & ClearおよびオーディオメーカーのA-Live Soundとの共同企画により、dCS Lina DACとマスタークロックに加え、ロータリー式Isonoeまたはリニア式Mastersoundsアナログミキサー、 パイオニアCDJ 2000NXS2プレーヤー、テクニクス1200GR2ターンテーブル、オーディオテクニカ製MM型ハイファイカートリッジ、Simaudio製Moonフォノプリアンプなどを組み合わせ、大々的に使用しています。ケーブル類と電源処理装置はThe Chord Company製、スピーカーはDanley Sound Labs製を採用しています。さらに、ルパート・ニーヴ、ソリッド・ステート・ロジック(SSL)、dbx、クラーク・テクニックのスタジオグレード機器を備えたマスタリング用機器がこれを支えています。このような大きな会場でのダンスフェスには珍しい、音響重視のコンセプトです。フェスティバルでこのレベルのオーディオファイル向け・スタジオグレード機器を見かけることは、前代未聞とは言わないまでも極めて稀です。しかしこの構成により、コリーンとアダムは素晴らしい音楽体験を来場者にプレゼントでき、特に、野外イベントで音楽を聴く際にしばしば体験するような、ブーミーな低音や歪みのない素敵な音楽で空間を満たしています。このシステムは、フェスティバル会場特有の音響的課題を考えて慎重に組み合わされていて、フェスに来る人達全員に最高の音質で音楽を愉しんでもらうことが出来るように、細かい点まで配慮したシステムになっています。

ここ数年、「ラブ・ダンシン」のテントとパーティーは「ウィー・アウト・ヒア」で最も人気のある企画の一つとなり、数千人のダンサーやトップDJを惹きつけています。中には週末を通して滞在するDJも居るほどです。アダムとコリーンは「ラブ・ダンシン」を「ウィー・アウト・ヒア」に導入しただけでなく、ロンドンのサウスバンク・センターやホートン・フェスティバルの第一次開催など、文化施設やクラブにもこのコンセプトを広げてきました。12月には、タイで開催されるワンダーフルーツ・フェスティバルでラブダンシンの特別企画を主催する予定です。
「ラブ・ダンシン」の核心にあるのは、音響が劣悪だったり問題を抱えたりする環境において、可能な限り純粋なサウンドを届けるという思いです。フェスティバルやライブ会場で「ラブ・ダンシン」の体験を提供することで、二人は優れた音響システムへの投資が、いかに「音楽を聴く、そして踊る」という体験を高めていくか、そして、さらには屋外や社交空間でも、もっともっとエキサイティングな雰囲気をもたらすかを示したいと考えています。
ここでは、アダムにコンセプトとこれまでのラブ・ダンシンの軌跡について話を聞いた…

Q: 『ラブ・ダンシン』のアイデアはどのように生まれたのですか? そして『ウィー・アウト・ヒア』で『ラブ・ダンシン』の体験を創り出すきっかけは何だったのでしょうか?

A: 私たちがプライベートな「ザ・ロフト」パーティーの魔法の一部を、フェス好きの音楽ファンと共に楽しみたいと思ったのです…
ザ・ロフトはプライベートパーティーですが、その魔法のような要素を、サウンドシステム、ダンスフロア、コミュニティの面で野外ダンスパーティーにも持ち込んだらもっと楽しいものになるのでは、と思いました。
サウンドシステムについては、フェス用の音響設備やステージとは一線を画す、よりハイファイでオーディオファン向けのアプローチを採用。DJにも扱いやすいフレンドリーな設計とすることで、ゲストを招き、彼らがデジタルでミックスやプレイを行うと同時に、レコードも使用できるようにしました。
Q: 「We Out Here」で人々が目にするサウンドシステムをどのように構築し、その音質を磨き上げたのですか?
A: The Loftでは、妥協のない驚異的な光悦製MCカートリッジ、フォノステージ、カスタムターンテーブル、そしてフロントエンドにMark Levinson ML-1プリアンプ(ミキサーではない)を使用しています。その後、Klipschornスピーカー用にマッチングされたClass-Aパワーアンプを接続しています。
この機材の一部は、ザ・ロフト外での数回のパーティーやフェスティバルで、ハイブリッド型「DJ」セットアップによるミキシングのベータテストを実施しました。しかし、野外での発電機は能力から言って、クラスAパワーアンプの天敵であり、クリプッシュスピーカーはDJの扱い方によっては悲鳴を上げてしまう、要はスピーカーのゲイン構造を真に理解しているDJならいい音で鳴らせるのですが。(実際にドライバーが飛んでしまったという事がありました!)。
10万ポンド(2,100万円)もするクラスAパワーアンプが、「ウィ・アウト・ヒア」の初開催で炎上してしまったこともありました…日曜の夜、屋台/出店(食べ物の)の発電機が故障したため、彼らは私たちに確認もせずに専用発電機に接続し、フライヤーや厨房機器に大量の電力を流したのです。冗談でしょう!
私たちは、ロンドン・ロフト・パーティーで何十年も音響に尽力してきた親しい友人である A-Live Sound のイアン・マッキーと、Loud and Clear Glasgow のアンドルー・ピリーとチームを組むことに決めました。この環境での DJ プレイバックのために、ハイファイ再生を基本としたハイエンドオーディオのアプローチを開発する手助けをしてくれるからです。
私が初めてダンリー・サウンド・ラボの機器を耳にして、そのさまざまな点に感銘を受けた後、イアンにこの機器を紹介しました。数か月も経たないうちに、イアンは倉庫いっぱいにあった D&B Audiotechnik の PA システムをすべて売却し、米国でダンリー社と面会して、EMEA(そして現在ではさらに広い地域)のディストリビューターになりました。彼は決して手を抜かない人物です。

アンドルーと Loud and Clear Glasgow は、フロントエンドに非常にハイエンドなハイファイ機器を使用して、ハイエンドの DJ および PA 機器を拡張およびアップグレードする方法を見つけるのにも協力してくれました。私たちは、DJ プレイバックのレコード側については、Isonoe、Mastersounds、オーディオテクニカのフラッグシップであるMMカートリッジ、Simaudio の Moon フォノステージ、The Chord Company のケーブルおよび電源コンディショナーなどを活用し、DJ にとって使いやすい形で、可能な限り限界まで追求していました。しかし、そのアナログシステムでのデジタル再生は、レコードと比較すると、その音質がまったくひどいものだったのです。レコードからデジタルに切り替えると、雰囲気が一変し、音楽に込められたエネルギーと感情が著しく低下してしまいました。これがdCSとの関わりが始まったきっかけです。

アンドルーは、外部 DAC を統合し、使用していたメディアプレーヤーの内部処理をバイパスすることを試みるよう勧めてくれました。「何かをするなら、その能力を最大限に発揮してやり遂げよう」というのは、コリーンと私が信条としていることです。簡単に言えば、dCS は世界最高のデジタル・アナログ変換システムを製造している企業です。
当初、私たちは各メディアプレーヤーに外部DACを使用し、デジタル出力を介して内蔵DACをバイパスしていました。初めてすべての設定を行ったところ、その変化はすぐに明らかになりました。(ここで、電話の通じない野原で、Loud and ClearとdCSの仲間たちと、システムとの連携を最適化し、可能な限りレコード再生に近づけるための設定変更方法を模索していた私たちの苦労を想像してほしい!)
アップグレードは驚くべきものだった。音楽の感情、ニュアンス、感触が再び新たな次元へと昇華され、ハイエンド・LP再生の繊細な音響表現と見事に調和しました。ラブ・ダンシン・ミッションはまさに始動したのだ…

『With Love Dancin'』では、サウンドと音楽を可能な限り純粋な状態に届けることを目指しています。デイヴィッド・マンキューソは常に、アーティストの意図通りに音楽を再生することこそが自身の探求だと語っていました。残念ながら、DJ機材はオーディオファン向けとは言えず、多くの機器が介在する過程で信号経路は劣化していきます。そのため私たちは、可能な限りシンプルな構成を心がけています。可能な限り最高級でありながら最もシンプルなDJ機器を使用し、さらにDJミキサーの内部部品だけに頼るのではなく、超高級ケーブル、電源コンディショナー、フォノステージ、DAC、マスタークロックでさらにアップグレードしています。
Q: なぜこの忠実さと純粋さが、あなたの視点から見てそれほど重要なのでしょうか?
A: 私の世界にある多くのオーディオシステムが、理想とする音を追いかける過程で忘れてしまっているのは、プロデューサー、ミキシングエンジニア、マスタリングエンジニア、そしてアーティストが皆、音楽をアーティストが望む通りの音に仕上げようと苦心して音楽を創り上げたということです。私たちの仕事は、圧倒的な低音で再構築することではなく、その音楽表現を意図された通りの音でダンサーに届けることです。(通常は音楽制作の段階で既に膨大な量の低音がバランスよく組み込まれてしいることを信じてください、私たちの役割はそれを可能な限り忠実に伝えることなのです!)
Q:音響面でのこの細部へのこだわりは、人々の体験にどのような影響を与えると思いますか?
A: 音響設備への投資が不足している多くの会場でのフェスティバルや音響は、多くの人の耳にとって負担となる可能性があります。野外フェスステージでは風が中高音を吹き飛ばすラインアレイ、歪みや低品質な機材による音質劣化は、大好きなアーティストやDJ、バンドを楽しむために訪れた誰もが直面する課題です。しかし、現代の技術があれば、課題を乗り越えられます。 [優れた音響システムがあれば]、人々はより長く音楽を聴き続けられ、耳の疲労も軽減されます。[そして]、音楽に没頭し、その世界に引き込まれるために、音量を極端に上げる必要はありません。デイヴィッドが私たちに教えてくれたように、「私たちは安全な音響を実践する」と同時に、リスナーに可能な限り最高の音楽性を届け・音による感動を体験していただき、良い音楽と良い音によるエキサイティングな体験を、と努めているのです。
Q: DJやLove Dancin'イベント参加者からはどのようなフィードバックがありますか?
A: DJたちは我々のサウンドシステムで演奏することを本当に愉しんで、愛しています。このレベルのシステムは他に類を見ないからです。我々が構築したものは唯一無二です。出演アーティストたちは観客やダンサーを、他ではなかなか到達できない音楽的な高みへと導くことができ、2019年から毎年(パンデミック時を除く)We Out Hereで開催を続ける中で、We Out Hereの素晴らしいコミュニティの中にLove Dancin'のコミュニティを築き上げてきました。多くのアーティストやゲストが週末を丸々ラブ・ダンシンで過ごし、このコミュニティ性が「フェスティバルのステージ」ではなく「パーティー」としての本質を形作っています。ダンスフロアで高まり続けるあの雰囲気は、25年以上プロとして国際的に活動してきた私でも他では見たことがありません。

Q: オーディオファン向けバー」やリスニングパーティーへの関心が高まっており、新たな会場やイベントコンセプトが各地で次々と登場しています。この現象についてどうお考えですか?また、今後どのように発展していくとお考えですか?
A: オーディオファン/ハイファイ/リスニングバーや会場は、ここ数年飲食業界で最も急成長しているトレンドです。コリーンが主催する「クラシック・アルバム・サンデーズ」イベントが15年前に遠く日本で、このムーブメントの火付け役となり、英国で爆発的な人気を博したことで、世界中の音楽愛好家たちが彼女と共に自国でイベントを開催したいと考えるようになりました。
コリーンはまず何よりも音楽を理解する人々と協力することを非常に重視しました。その後、可能な限り最高の音響機器を調達する手助けをし、優れた音響効果を持つ響きの良い会場選びを助けてくれました。数ヶ月後には、毎月世界20都市以上で「クラシック・アルバム・サンデーズ」セッションを開催するだけでなく、特別イベントも実施。こうしてリスニングバーのトレンドが誕生したのです。
残念ながら、文化現象に基づく流行の波に乗ろうとする時、知識も経験もない人々が便乗して利益を得ようとするため、今や毎週どこかで新しいハイファイ/リスニングバーがオープンしているのです。その結果、音響の基盤である音響設計がひどい店舗、手作り「ハイファイ」や見た目は立派だが平均的なアンプに接続されたスピーカー、安価な「標準的な」DJ機材(様も悪くもない)が並ぶ店が増え、お客さんが「なんで聴こえる音に感動しないのか」と首をかしげるような状況が生まれているのも事実です。

素晴らしい料理と同様、優れたサウンドも、、プロセスの各段階が妥協なく完璧に機能するためには、可能な限り最高水準の素材からスタートしなければ最終的な結果は最高のものとはならないのです。
高い水準を謳いながら、実際にはその基準を大きく下回るものを提供する人々やブランドには、本当に腹が立ちます。私たちは、オーディオファン向けのダンスフロアとリスニング空間の両方に向けて、いくつかの取り組みを進めています。これらが、音楽体験が本来持つべき姿に近づきたいと願う人々のために、フロントエンド側の課題の多くを解決する一助となることを期待しています。
Q: 英国でのフェスティバルシーズンは終了しましたが、Love Dancin'を海外のライブ音楽イベントにも持ち込むとのこと。次にシステムをどこへ持っていく予定ですか?
A: 今年はLove Dancin'のバージョンをタイのワンダーフルーツ・フェスティバルに持っていきます。私たち二人とも以前出演したことがあります。現地ではdCS、Moon by SimAudio、The Chord Companyのサポートも得て、日曜日の「Love Dancin'」特設ステージに向けフロントエンドのアップグレードを進めています。新たな会場、新たな観客、そしてそれに伴うあらゆる挑戦の中で、この企画がどう展開するか、私たちは皆ワクワク(そして緊張も!)しながら見守っています。
Q: 今後の展望として、Love Dancin'のコンセプトをどこへ発展させたいと考えていますか?フェスティバルやライブ会場に優れた音響をもたらす他の計画はありますか?
A: 勿論です!ただ現時点では全て極秘事項です。現段階ではこうお伝えしましょう——世界最高峰のハイファイメーカー数社と協力し、『DJ向け』および『リスニングバー向け』再生環境を飛躍的に向上させる手頃なソリューション開発に取り組んでいることに、私たちは非常に興奮しています…
